それはすでに西暦、むしろ時という概念が失われてしまったころ。 時が消、え人々の心から人が消え・・・ あの戦争から、大昔で言う1000年の時間はゆうに経っているであろう。 あの戦争・・・第3次世界大戦。 記憶としても消えかかってしまっている歴史を語ることになりそうだが・・・ あれはヒトが、その瞬間を境に、ただの賢き者≠ノなってしまったとき。 戦争の動機は謎だった。 あらゆる貧困問題も、紛争も、核保有も・・・その戦争の原因とはならなかった。 キリスト教の総本部、*教皇庁が全異教者に対し宣戦布告。 国家など小さな団体にすぎなかった。宗教間に引き起こった、最悪最狂の戦争だった。 ときの*教皇ルキウス4世 財力と軍力において、大昔市国だったバチカンはノーマークだった。 そして、Ex≠フ強さもまた、謎だった。 それは数十人の歩兵部隊だけで、数億の人間の破壊≠ェ行われた。 なすすべもなく、世界は下僕の中の下僕の下僕になってしまった。 当時かろうじてまだ働いていた国際連合は教皇庁の宣戦布告から6日目の朝、その歴史上初めて国連軍の組織、派遣の決定を成した。 宣戦布告から7日目の朝、ニューヨークの200本の旗はすべて、黄色と白の、鍵と王冠の旗に変わっていた・・・ もはやなんぴとも話せることのできないラテン語の断幕を掲げた殲滅集団は、その後の歴史には一切登場することはなかった。 絶対的な2つの原因が、そうさせたのである。 1つはルキウスが最後までExの秘密を暴くことがなかったこと。 もう1つは記録した者、もはや記録しようとした者がいなくなってしまったこと。 よって宣戦布告から9日目の夜、初代教皇ペテロの墓で、死者のためのミサが行われたことも、記録に残ってはいない・・・ Hiemis Carmen それが唯一、その事件を記憶している書物の言葉である。 この単語の下には、次の通り続いている。 ある年、ある日・・・白雪の舞う冬のある日、1つの謌が聞こえてきた ここで謌≠ニいう字が使われているのは、声にも、音にもならない・・・そういう死者への哀悼が込められているのかもしれない。 Hiemis Carmen それはラテン語で冬の謌≠意味する。 しかしそれは同時に嵐の謌≠ナもあった。 * 「さぁ血盟なる使徒同志の諸君!! ここに夏休み合宿の開催を提案したいのだがいかがかな?」 厳かに鐘が3回鳴らされた。それが枢機卿閣議の始まりを知らせる。 教皇の議題の提出から始まるのだが、その言葉を聴いても、枢機卿たちは、目を閉じたままでいた。 閉め切った室内なのに風が吹いた気がする。 妙な間に居心地の悪さを感じたか感じなかったか、教皇は続けた。 「さぁ決を採るぞ。血盟なる使徒同志の諸君、賛成の挙手を!!」 「待ってくださいローマ公。 あまり血盟のって連呼しないでください。それにちゃんと皆さんに説明してから・・・」 もはや識者とは思えない言葉遣いとそのパーソナリティー。 教皇の名はルキウス5世<Pontifex-Lucius-X>、ローマ公爵。 22歳にして世界最高権力を手に入れた、ギャグと血に飢えた最凶青年である。 ルキウスは、もしワケの分からない理由で靴箱を爆破したとしても、妥当だと叫ぶだろう。 そんなトップに彼らの中で唯一物申せる、最年少枢機卿だけが、諸枢機の頼みの綱だった。 畏怖しているのでは毛頭ない。 スマートに言うと、こうだ・・・呆れている。 「そうかジェノヴァ公・・・では卿から説明を」 ルキウスがその弁壇を最年少枢機卿に譲ったことで、初めて諸枢機は瞼の中に光を注いだ。 しかしその光はあまりにも目に痛かったのだ。 愚かなことに、諸枢機はまたもすぐ、目を覆うことになることを知らなかった。 「お集まりの神の御使い方よ、しばしのご静聴を願いたい!!」 状況はなんら変わらなかった・・・ 少年はその手に握られた大槍を床に突いて威厳を正すと、ゆっくりと口を開いた。 「この夏、消去者分室の強化合宿の実施を、我が聖務省の御権において要求します!! ところはペルシャ。こは神への献身のための聖務であることを宣言します!!」 少年はそれだけの言葉で諸枢機を丸め込めようと考えていたのだろうか・・・ もはやその必要もないのかもしれない。 彼の名は妃焔 冬謌<Touka-Hien>、ジェノヴァ公爵。 18歳にして最年少枢機卿であり、聖務省を司る長官でもある。 またその管轄であるExの室長も勤め、彼自身こそが、教皇庁最強にして最狂の戦士である。 「理解いただければ幸いにして、諸君の賛同の挙手を要求します!!」 しかし手をあげるものはいなかった。 当然のことかもしれないが、この際までも愚かなのは諸枢機の方だった・・・ 「我ら教皇庁は、世界に対して大きな借りがある」 おもむろにルキウスが語り始めた。 「世界をこのような惨めな状態にした責任は、我々にあるといわれても仕方がな・・・」 「待ってくださいローマ公。そのセリフ・・・パクリはやめてください!!」 急くようにして妃焔が水を差した。 ルキウスはその場が弁壇であるということも忘れてわめきだす。 「余は何もパクッてなどおらんわ!! パクリだと思うからパクリになるのだ!!」 「ワケの分からないこと言わないでください。あなたは社長じゃなくて教皇なんですッ!!」 きょとんとしながらルキウスは黙る。 変わってその場を取り繕う様に妃焔が続ける。 「こ、こたびの我々の合宿は、歴史の修繕でもあるのです! ローマ公が見出した新しい*幻法陣で過去の戦士たちを召喚することが可能だと判りました。 わ、我々はそれと交敵し、聖務を執り行う所存であります!!」 やはり少しあどけなさが残る枢機卿は、慌てふためく姿を大衆に晒してしまった。 たしかにこの作品を最後まで読んでもらえれば、彼らの聖務が歴史の修繕であったことは分かるだろうが、この場にいる諸枢機にはもはや関係のないことであった。 それがSFチックに聞こえようと現実的に聞こえようと、彼らの選択は1つに決まっていた。 この後、議題は全員一致で可決されたという・・・ * ルキウスたちは、すでにペルシャの地にいた。 合宿であって訓練であるのだから、全力を尽くして勝つことが主ではない。 Exの7人と教皇だけが、今その戦地の砂漠を汚していった。 そう掲げられた断幕には、新しい歴史が意味成されている。 「ろ、ローマ公・・・もうこのあたりで良いのではないでしょうか?」 畏れながら尋ねた少年は、人並み以上の荷物を担いでいた。 いや、客観的に見ることにしよう。彼以外の7人は手ぶらである。 無論、独裁者からの返答はない。 こんな華奢な体のどこに8人分の荷物が乗るのかという疑問はさておき、彼はひたすら歩いた。 彼は紫雲 雑葉<Zatsuyou-Shiun>、言わずもがなExではパシリ役である。 彼の名はおそらく作者がらみの虐めだろう。 18歳にしてこのような世界を知ってしまったばかりに、彼はもっぱら人殺しにもなれない。 「ジェノヴァ公、この場所では戦いに不利であるか?」 「いえ・・・我々の足をすくうまでではありません」 「そうか。ではここにしよう。幻法陣も書きやすい・・・雑用、早く背の物を降ろせ」 ルキウスは、あくまで彼を名前で呼んでいないという。 一言の不平も言わず、雑葉は言われたままルキウスの荷物を手渡す。 「では諸君! これより戦士の召喚を行う!! よく目を開いておけ!!」 ひとことにそう叫ぶと、ルキウスはおもむろに五芒星を書きはじめる。 「でもこんなこと、魔法みたいなSFチックなことをしていいんですか?」 もはや作品の行く末を案じてか、雑葉は尋ねた。 「やかましい。そうでもせんと話が進まんではないか!!」 「え・・・そんな明らかにこの作品はフィクションです。みたいなこと言わないでください」 「構わぬのだ!! もとい我らの人格からして疑われる設定になっているのだぞ!? 今更その程度のことを気にしていられぬではないか!!」 こうとなれば世界最高権力者も下っ端のパシリも関係なくなる。 もはや活字では記せないほど醜いセリフのオンパレードである・・・ 「だいたい貴様はいつからの得gfふ亜t・・・」 「・・・どうしたんですか、ローマ公?」 「いいではないか!! タイプミスがあったって!!!」 雑葉はその場にペシャっと音を立てて崩れ落ちた。 薄幸の少年を思いやってか、妃焔は苦笑いを浮かべながら槍でつついた。 * 砂に埋もれている少年以外のEx執行官は、すでに装備の準備を終えていた。 ちょうどルキウスが幻法陣を書き終え、Exが防壁のように1列に立ち並ぶ。 「 厳かな詠唱の元、教皇は強く祈り、戦士たちは精神を統一させる。 額、胸、左肩、右肩・・・ゆっくりと十字を切った。 その信心の根本こそ知れないが、彼らの神に対する想いがひとつになるとき、 それは現れたという・・・ (余は諸王の王である) 声ではない、何かテレパシーのようなもの。 彼ら全員の心を貫いた矢は、見覚えのあるものだった・・・ 「き、*キュロス大王・・・」 思わず息をのんだ。 彼らの心に巣食ったのは恐怖ではない、畏怖だ。 その場にいた誰しもが、自分が今、法衣を着ていることを呪い、そして同時に讃えただろう。 それはまさに・・・歴史≠ナあったのだから。 「おぉ、 感激のあまり、8人の内の1人が叫んだ。 一切変わってしまった雰囲気を元にたどれば、彼はたしか雑用係だったはずだ。 「ローマ公、こんなところにユダヤ教徒がいますが?」 「あぁ、死刑にしろ」 「はい」 2人の青年は見る方向さえ変えずに淡々と言葉を交わした。 若い方の青年は、その手に握った槍の先を雑用係のこめかみに当てた。 「し、室長〜。冗談ですって」 「いや、お前は死刑だ♪ これは教皇様の決定であり神のご意志なのだよ♪」 2人は対照的な笑みを浮かべていた。 雑用係の冷汗が槍をつたわっていく。 「そんな〜・・・冗談が分からないお方ですねぇ」 「冗談が分かっていないのはお前のほうだ」 「へ?」 相変わらず青年は冷酷な笑みを崩さない。 そして気の抜けた返事をした少年に向けられた言葉は、文字通り死の宣告だった・・・ 「お前を殺すところまでが冗談なんだよ♪」 そうして哀れな少年は、砂漠に沈む。 「さて、では参る!!」 槍を構え直した青年が叫ぶと、そこには再び緊張が走る。 もちろん砂の中に人が倒れていようと関心はない。 (さぁ、刮目せよ!!) 腹底に響くような、禍々しい謌・・・ しかし全員が負けないことを、いや、勝つことを確信していた。 何故なら彼らは、リベ○オンのプレストンであろうが・・・ キャ○ャーンの鉄也であろうが・・・ トリ○ティ・ブ○ッドのアベルであろうが・・・ 決して負けない。そして必ず勝利できるからである。 「 * 1列の横隊がズンズンと足音を立てて進んでいく。 いつ生き返ったのか、たかが10行程度の間である・・・ ルキウスの脇では雑葉が巨大ラジカセを抱えてBGMを流している。 それもきっと雑用≠ニいう仕事なのだろう。 音楽は「*片翼の天使」・・・きっと伏字は使わなくて大丈夫だろう。 強烈なオンビートのリズムに合わせて行進。 移動の間に陣形を形成し、前線と後線に分かれる。 初めはこのイタリア人19歳コンビ「A.A」だ。 アンドレア・アースクライツァ<Andrea-Athekrayza>と アレッシア・アッカロリーニ<Alessia-Accalorini>のイニシャルが どちらもA.Aであることから名付けられたコンビである。 アンドレアの武器は2丁の拳銃。 それぞれA-a33008-Dies Irae≠ニA-a33077-Motus Terrae≠ニいう名がついている。 武器名の解説をすると、Aは武器であることをしめす、Artus≠フ頭文字。 アルファベットと2つの数字からなる持ち主のID。ここでa33とはアンドレアのことである。 そして3桁の武器番号、武器名という造りだ。 更にアンドレアの場合、腰から足から、全身に多量の予備弾丸を装備している。 ・・・というのも、彼はその超神的な敏捷力と引き換えに、めっぽう銃の腕は良くないのだ。 彼が最前線に繰り出せば、確実に5分足らずで1万人の部隊を殲滅することができる。 しかしそれに消費する弾丸はというと、少なく見積もっても10万発は必要なのだ。 まさに「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」である。 一方、アレッシアはその苗に熱烈∞猛烈≠フ言葉を有し、名には読字不能≠ニあるように、冷酷無血、また、敵味方の区別もつけず殺しまくる、教皇庁最狂の猛者である。しかし、それでも女の子である。 A-a34001-Rubra Luna∞A-a34002-Bibor≠ニいう名の三日月刀を、これまた二刀流。 サイレント・キリングに長けた装備である。 ぶっちゃけた話、この2人だけいればペルシャの不死身の1万人≠ノは勝てるだろう。 今まさに、2人が孤高と敵の軍隊に突っ込んでいった。 もうそうとなれば、あちらこちらでペルシャ人の首が飛ぶだけで、彼らの動きなど到底見ることはできない。 一方は音もなく、もう一方はマガジンを取り替える合間も見せることなく歌う。 少し遠いからなのか、銃声が遅れて聞こえる。 しかしアレッシアの剣が細枝をとらえる間隔をじっと観察していると、そうでもない。 きっとアンドレアが音速を超えるスピードで飛んでいるのだろう。 その弾丸の顎にかかった者は、声を上げることも許されずに脳漿を振りまく。 何かその場所に赤インクだけで絵を描いているように、色が浮かんでいる。 そしてA.Aとともに最前線で切りまくっているのが、教皇庁の園長先生こと、カイン・ローウェル<Cain-Lowell>である。 彼は31歳とExでは最年長であることからそのあだ名を持つが、彼の殺しっぷりは残忍であり最高であると言ってよい。 アメリカ人のクセに、全長2mにもなる日本刀A-c38001-Murasame≠軽々振り回す。 彼一点めがけてきた数百の兵士を極限まで引き付け、深く腰を落としつつ、鞘から抜くのと同時に一刀両断。 「他愛もない・・・安らかに還れ」 ひっそり呟くと、カインは十字を切った。 牙をむき出しにした村雨の雄叫びが、静寂として轟いた・・・ 相手の軍隊はなすすべもなく破壊されていった。 心に直接伝わる言葉≠ナ、キュロスがうろたえているのが分かる。 更に3人の後ろについて戦っているのが、飛武器を所有している2人である。 1人はエーリッヒ・フォン・ローゼンヴァイデ<Erich-Von-Rosenweide>。 彼が喋ろうものなら、ヒョウどころかトラが降ってくるだろう。 無口冷静冷酷の教皇庁トップアーチャーだ。 弓を地面と水平に構え、同時に3本の矢を放つ。 飛び掛ってくる敵3体を同時に貫通し、さらに後方の3人をこの世の者でなくす。 ちなみに彼の弓はA-e35030-Catta#Lという意味である。 もう1人はベアトリス・ド・ローラン<Beatrice-De-Laurent>。 A-b36082-Sapientia Dei♂~月輪という珍しい武器を使っている。 「月まで届け〜♪」 そう叫んだ彼女から放たれた円盤は、説明に困ってしまう奇怪な音を立てながら、血を求めて大空に飛び込んでいくのだ。 数える間もないうちに、円月輪は見えなくなってしまう。 ベアトリスの歌を聞いた青年は、退陣の指令を叫ぶ。 再びルキウスと雑葉に対して防壁を形成するのだ。 おおよその敵軍も退陣し、陣形を組みなおそうと身構える。 砂漠に1つか2つ、風が吹き抜ける。 対照的な緊張をした空間は、この瞬間に無惨にも刈り取られた。 どこからともなく舞い戻ってきた円月輪・・・ 地面と平行に走る刃。1つの瞬きの間に何百もの兵士が消えた。 「そんな目茶苦茶な・・・」 「結構でしてよ♪ バッサリが私のスタイルでありますです♪」 いまいち理解に困るお嬢様言葉が砂漠に響く。 さっきまで軍隊がいた場所に、いつしかサルビアの花畑が咲いていた。 世界最高峰のクインテットの演奏によって、不死身の1万人≠ヘいつしか半分の大きさになっていた。 (むぅ貴様ら、何者だっ!?) 「私たちはEx・・・いえ、ただの聖職者です」 キュロスは当然アラム語を話していたはずだ。 だが彼らの間に通訳は必要なかった。 どんな狼狽も妃焔には聞こえていた そしてメシアの苦悩は、次の瞬間決定的なものとなる・・・ * 「こちらV-002-Gabriel=@ローマ公、応答を要求します」 「ハリス神父か・・・上がってこれるな?」 ズ・・・ザ、ザァ 館内に閑散としたノイズがばらまかれる。 Vとは戦艦や戦闘機などの乗り物をあらわすVehiculum≠フ頭文字。 教皇庁は熾天使になぞらえて4つの戦艦をもっている。もちろん水用だ。 「はい・・・ガブリエルの御名において、不可能はありません」 いっそう意志を込めてマイクの電源を切ったのは、戦艦ガブリエルの艦長カーブレイス・ハリス<Calbraith-Harris>だ。 名前は作者の陰謀か・・・鎖国は嫌いな性分だろう。 全長は約150mもあるにもかかわらず、クルーは3人だけである。 その内の1人の青年が、不安そうに言った。 どうやらここにも、薄幸の下僕がいるようだ・・・ 「あのぉ・・・艦長、何をなさるおつもりで?」 「もちろん、戦線に加わる!」 「と、言いますと・・・って、砂漠を渡るおつもりですかっ!」 その嘆声は当然のものだろう・・・ しかし全てにおいて、長というものは絶対らしい。 もっとも彼らの最たる長は、父なる神であるはずだが・・・ 「水の粒子も砂の粒子も関係ない! 渡るぞ!!」 「そ、そんな!! 液体でもないのに・・・無理ですよ!!」 彼はリュセル・クラッド・ミーナ<Lysell-Clad-Miena>という名だ。 未だ21歳・・・彼の往く海は前途多難である。 「そこに水がある限り渡って往く・・・それこそ真の船乗りよ!!」 ひとことに叫ぶと、黒船の船長は意気揚々と舵をまわした。 青年は思った・・・砂漠に水なんてない。 * ふとキュロスは絶対的な存在を背後に感じた。 尋常でない威圧感に、軽捷に剣を向けると、彼は声すら出なかった。 それはきっと、大昔浦賀にいた人間と同じような驚愕だっただろう。 いや、まさにそうである。そうともそうだ、黒船だ。 (こ、これは・・・いつのまにっ!?) 「ただいま到着いたしました。V-002-Gabriel<Jーブレイスです。」 「暑い中ご苦労。すぐにクラウス神父の派遣を要求したいのだが・・・」 メシアの言葉は完全無視である。 それよりも、ここまで戦艦が辿り着くという不可能も無視だ・・・ 2人は事務的な連絡を交わした。 すると不意に、ガブリエルの甲板から、何かが飛び立った。 「年寄りを急かすでないぞ、ローマ公。」 それは戦闘機だった。航空機特有のエンジン音が無線から耳に届く。 操縦しているのは、クラウス・クルツ・クナッパーツ<Klaus-Kruz-Knapperts>、66歳の最高齢神父である。 あだ名はKKKであるが、どこぞのテロリスト集団とはもちろん違う。 「ワシの目は微粒子まで見える!!」 それが彼の口癖だ。 彼は小型の単弾しか撃たない。そうでないと自分の視力が証明されないからだそうだ。 「KKK、今日も的を外されませんねぇ?」 「めっそうもない妃焔室長。どんなに離れていようと撃ち抜いて見せますじゃ!!」 彼は何でも66.6という超神的な視力をもっているらしい。 また、それを隠すために普段眼帯をしているという。 「操縦するときくらい、眼帯外されたらどうです?」 艦長と共に甲板に出ていた薄幸少年Bが無線で尋ねる。 相変わらずノイズは酷い。 「冗談ではないぞ、リュセル。邪魔でかなわぬ!!」 「・・・何がです?」 「窒素だ!!!」 リュセルはその場にペシャっと音を立てて崩れ落ちた。 決して打ち合わせがあったわけではないが、倣ったように、カーブレイスは苦笑いを浮かべながら杖でつついた。 「見てくだされ、炭素と酸素が共有結合をしていますじゃ〜!!」 意味不明なことを叫び、教皇庁ナンバー1パイロットは単弾を落としていった。 もう・・・不死身の1万人など、傍らにも存在してはいない。 * 硝煙弾雨がおさまった広大な砂漠からは、いつしか音が消えていた。 (信じられぬ・・・完敗だ。これぞ余の天命なのか?) メシアはきっと悪い夢を見ているのだろう。 その眠りの中には、彼が築き上げたはずの大帝国は存在しなかった。 古代とロストテクノロジーとのぶつかり合い。 戦乱の結末に幸福などないのが定石である。 残されたキュロスに、妃焔が近付く。 「 彼の言葉によって、歴史≠ヘ歴史≠ノ帰っていった・・・ 妃焔は再び、三位一体の印を切る。 槍が一際輝き、その光を砂漠が湛えているように見えた。 Hiemis Carmen それは知っていた。彼らが消去者でないことを・・・ それは知っていた。彼らが復興者であることを・・・ in Aestas 彼らの記した歴史は・・・ある夏のことだった。 * 「皆の者、夏休み合宿、本当にご苦労だった!!」 砂漠に浮かんだ戦艦の、異様な光景の中でその祝杯はあげられた。 ルキウスが言う夏休み合宿とは、この作品自体のことかもしれない。 今この冊子を手にとっているあなたもまた、歴史の目撃者なのだろうか。 ここまで彼らに付き合ってくれて本当にありがとう。 「でも本当にあんなことしてよかったんですか?」 「何がだ?」 「この作品・・・歴史家にも宗教家にも嫌われますよ?」 雑葉は決して無能なわけではない。 しかし後に待っているものを知っていながら話しているワケでもない。 「作品だと・・・?」 妃焔が横目で睨む。 もう綴る必要もないだろう。 キミは最後までこの作品を心配してくれていた。 あぁ薄幸の少年よ、いつか卿に幸福が訪れますように・・・ 「何故お前はそうも簡単にこの作品はフィクションです。 みたいなことを言うのだ? 死ねェェェ!!」 ・・・・・・ぅゎ~。 間の抜けた悲鳴が再び砂漠にこだまする。 そこに残されたのは、歴史の記録と、何か抜け殻のような人形が1つ・・・ 訓練合宿は終わりを告げ、黄金色の天体は始まりを見つめていた。 Peccati Vestigia それは決して消えることのナイ あなたを愛した罪の刻印――― 漏れる喘ぎは永遠のエレジー 滴る涙は紅のラプソディー 現は幻想の 夢は過去の 美しさなんて 捨て去ってしまえ きっといつか 消えてしまう想い 甘い蜜はアルストロメリア 禁断の色はサルビア ボクの目に もうあなたは映らない 朧月夜に ボクを殺して――― Aeterna Immemor 紫雲 雑葉 Hiemis Carmen in Aestas Fin… *教皇庁(Curia Romana) キリスト教の一大教派であるローマ・カトリック教会の使徒座・総本山。 ローマ市内に位置し、ヴァチカン市国という世界最小の主権国家の中に置かれている。 かつては自らの領土=教皇領を持っていたが、19世紀末のイタリア独立運動の中で失った。 *教皇(Pontifex) ローマ・カトリック教会の最高位聖職者であり、 政治的にはヴァチカン市国の国王(元首)である。 キリストの代理人、神の下僕の中の下僕など、様々な異名をもつ。 初代教皇はペテロとされている。 ちなみに、現在の教皇はベネディクト16世(2005年4月19日〜)。 *幻法陣 五芒星と詠唱文を書くことで、魔法に似た力を起こす。 次元を歪ませ、一時的に時間を戻す効果がある。 *キュロス 大キュロス、キュロス2世のこと。B.C600〜B.C529。 アケメネス朝ペルシャ帝国の初代皇帝であり、諸王の王と号し、古代オリエントを統一した。 バビロン捕囚に遭ったユダヤ人を解放し、旧約聖書ではメシアとされている。 *片翼の天使 ファイナルファンタジー7にて、ラスボスのセーファ・セフィロスとの戦闘時に流れる曲。 植松伸夫作曲。歌詞はカール・オルフ作曲の「カルミナ・ブラーナ」。 |