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冷たい金属のぶつかり合う音しかしなかった。 冷たい野望の中でただただ踊らされてるだけだった。 この夏、俺たちは死にます…
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春も終り夏真っ盛り。もうすぐ始まる夏休みに向けての期待も大きい今、期末テストも終り皆どこか穏やかな雰囲気が構内に流れていた。ピリピリしている人…といえば、まぁ成績表作りで忙しい教師たちぐらいで。 「俺もそろそろ部活行かなきゃ。」 ふと立ち上がる俺。教室にはもう誰も居なかった。 部活…といえば夏休みに2週間合宿といって、俺の通ってる高校には名物みたいな合宿がある。それも…天文愛好会とサッカー部の合同合宿。おかしいよな、有り得ないよな?俺もそう思ったよ、入学当初は。去年面倒くさいからって参加しなかったから、どんな内容なのか分かんないんだけど随分と楽しかったらしい。同じクラスの幼馴染…でもないか、腐れ縁とでも言おう彩菜は「一久も来れば良かったのに!」と終始言っていた。馬鹿の一つ覚えみたいにね。今年はまぁ…夏休みコレといってすることも無いし2週間も潰れるんだから、参加してやら無くも無いかな。…全部学校側負担だし? 「かーずーひーさー……!?」 「…あ?」 急に教室に飛び込んできた彩菜。小さくて細くてまるで小学生みたいだ。ああ、いけない。彼女今最高潮に怒った顔をしていらっしゃる。 「早く部活に来なさい! また遅刻するつもりなの!? 何回目? 何回目よ、バーカ。」 「…どうでもよ…『くない!!』」 「…」 切羽詰まって苦笑いする。なんでしょう、この彼女のせっかちさ。張ったおして殴ってやってもイイですか? まぁ、そんなことやったら泣いて泣いて泣き喚く事だろう。ここは巧く流すべきだな。 「今行こうとしてた所。」 「ならよし!」 そう言って彼女は腕を組んだ。幼稚園生ですかアナタは。とてもじゃないけど俺と同い年には見えない。 「さぁ、理科室へLet's GO〜!」 彼女に手を引かれるままに俺は廊下を歩いた。そうです、俺はサッカー部ではなく天文愛好会の方へ所属しているのです。まぁ、なんとなく予想は付いていたかもしれないけど…ボールなんか蹴ってて何が楽しいんだよって感じだね。星を見てるのも激しくつまらないけど…こっちの方が何か為になりそうだし? あの数ある部活の中から面倒くさがりの俺が選び出したのが、天文愛好会。それに、彩菜さえ居なければ幽霊部員で通そうと思ってたくらいだから。 理科室前にたどり着き、彩菜が勢い良く教室のドアを開けた。ガラガラ…と轟音が響く。 「はい、先生。遅刻組の馬鹿北見君を連れてきました!」 「そうか、じゃあそこら辺空いてる席に座れ。」 「はーい。」 無駄に響く彼女の声。それに振り向く多くの児童。あれ…こんなに居たっけ、天文愛好会って。この学校って引き籠もりばっかりの学校なんですか? ってそんな訳無いか。だってそこに座ってる奴サッカー部の面々だし…あぁ、今日は合宿の説明か何かをするのか。 「はい、今日皆さんに集まってもらったのは合宿の事です。」 はぁ…マジでだるい。もう帰ってもいいですかね、俺今日てっきり論文作りかと思って楽しみにしてたのに! まぁ良いか、寝てしまおう。 つまらない説明を真剣に聞ける様な性格の持ち主じゃない俺は、生暖かい教室の空気のせいもあってかすぐに眠りについてしまった。 *
体が揺れている、地震な訳が無い。 背中に何か感触が…次の瞬間、俺の頭は鈍痛に見舞われた。 「痛ってぇ!? 何? 何が遭った!?」 「はい、オハヨウ? 一久君?」 「“オハヨウ?”じゃねえ! 痛ぇ…」 状況判断がやっと出来た俺は酷い鈍痛に疼く頭を抑え、冷め笑いを浮かべる小さな女帝(天然)彩菜を前にキレた。 「だってぇ…一久ずっと寝てるんだもん! 彩菜淋しい〜。」 「その話し方キモい!!! 止めろ!!」 「ははは…冗談よ…」 気まずそうに、目を泳がせる彩菜。それより、周りの奴らが全員寝ている。何で寝てるんだよ、皆教師の話がつまんなかったとか? 面白い訳ないけどさ。 「何で皆寝てんの?」 「判らないの。私も寝てたから、さっきまで。」 「珍しい…」 彩菜は教師の話を聞いて寝る事は無い。部活中もちゃんと起きているし、まして授業中何て寝たためしがない。 「そうなのよ、何で寝てしまったのかが判らないの。」 「なんか…俺は、教室が異様に生暖かかった気がした。」 「え…それってもしかして台風?」 「はぁ…俺もう疲れた。」 また大ボケな発言をする彩菜に俺は深いため息を吐いた。 「何が?」 「…」 “そんなのも判らないの?”と言うように微笑みかける。 「…」 苦い沈黙が訪れる。彩菜は苦し紛れに舌をペロっと出した。 「だから、俺たちは薬品で眠らされたんじゃねえの? って事。」 「あー! そうね。そうかも! そうよ、そうだと思う! 私もそう思ってたところ! 何で薬品なのよ…」 「今、お前“何で薬品なのよ”って言っただろ。」 「…あはは。」 「嘘吐くのは止めろって、下手糞なんだから。」 「ま、そんなことはいいんだけど…問題は何で眠らされたのかってことなんでしょ? 私 は良く判らないままなんだけど。」 彩菜は必死で話題を変えようとした。キレた俺は怖いのを百も承知のようだ。まだ判らないままの彩菜に俺なりの考えをとり合えず言ってみる。 「そういえば、さっきから違和感があるんだけど俺ら理科室に居たよな?」 「うん…」 「ここ、一般教室じゃねぇ?」 「あ…」 ようやく、彩菜は判ったらしい。でも、それは俺の違和感だけであって、本当の事か判らない。この空間、この場所、何故ここにいるのかが全くわからない。 謎に包まれるばかりだ。 一向に周りの奴らが起きる気配もしなく、時間だけが刻、一刻と刻まれていく。隣にいる彼女の額に脂汗が滲んでいた。天然な彼女も全員が寝ている教室に極度の恐怖感に見舞われているみたいだ。 俺はとり合えず席を立ち上がり、教室の空気を入れ替える事にした。閉まりきったカーテンを一気に引っ張る。 「…!」 俺はその光景に驚いた。 下を覗き見ると絶壁になっていて、落ちてしまったら体は肉片となって飛び散るだろう。それにしても…なんてところに建っているんだ! この学校は! とり合えず判った事はここは俺たちが通ってる高校の教室ではないという事、それと…なんとなく俺たちに身の危険が迫っているような気がした事。それくらいだけだった…。 「どうしたの、一久。」 「…あぁ、ちょっとこっち来て。」 あまりのショックに彼女の存在を忘れていた俺は呼びかけられハっと我に返った。 そして、この事はやはり彼女にも伝えなければならないと思い咄嗟に彼女を呼び寄せた。 「なに―――…っ!?」 外の光景を見て目を大きくする彼女。驚きは隠せない様子だ。 「判った? ゴメン、別に怖がらせたかったわけじゃなくて。」 「…」 「あとから知って受けるショックより楽だろ?」 「なんで私たち…ううん、何でもない。」 彼女は何かを言い掛け、口を噤んだ。その表情は先ほどよりも増して辛辣な赴きだった。 *
… …… ―――――――――…! また寝てしまったのか…? 俺は、教壇のほうへ目を向けた。まだぼやける視界の中で見た物は…軍人。歴史の本の中や教科書でしか見たことの無いような踏ん反り返った御偉い方のほうの軍人。あの自衛隊のような迷彩柄の服ではなく、白い軍服に身を包んだタイムトリップしてきたような奴。 目を合わせたくなくて咄嗟に目を伏せた。そして、狸寝入りして奴の気を損なわないようにいい子にしていようと思った。 次の瞬間――――――――― パーン!! 「…!?」 俺は誰よりも先に顔を上げてしまった。 まだ誰も起き上がらない静かな教室。(しまった…目立ってしまった…)頭の中は焦る一方で、しかし思ったより体は動じずに居てくれた。 「…貴殿、名前は?」 突然、名前を訊かれて俺は驚いた。 しかし、表情には出ずついついいつもの癖で反発してしまった。 「名は名乗ってから訊くものです。」 やばい、殺されるかも? 「私は、元少年兵大佐白川千歳だ。」 意外な回答に目を丸くしたが、この軍人…いや白川? か。強面だがそれ程悪い奴じゃないのかも…? あくまで予想だけど。 そうだ、相手が答えた以上自分も名前を言わなくちゃいけない。 「僕は、北見一久と言います。」 「礼儀が正しいな。 今の音で良くぞ反応して起きられた者だ。貴殿はいつでも戦地へ赴ける。」 「戦地へですか? 何故?」 「…ああ、貴殿は選ばれたのだ。」 「…?」 「いや、貴殿達は選ばれてしまったと言えばいいのか。辛いだろうが、私も少年兵だった。」 「はぁ、そうなんですか。」 いや、この人軍人だろ? 大体こんな平和な国に軍事要らないだろう。戦争しないし、第2次世界大戦からもう90年近く経ってるし。 「君達は、ある計画に推薦された。今回上の奴はお試しと言っていたが。」 「貴方の上司の方がですか? …あの計画って…?」 なんなんだ、計画って! その計画の為に連れて来られたってこと? 「計画、とはもうすぐで戦争体験者が日本から居なくなることが問題視された事がきっか けで作り出されたもの。私も、もう歳だしな。起きてるのも辛い…」 じゃあ来なきゃいいじゃん…と相手に悟られないよう、心の中で思った。この人見た目相当老けて見える。それよりも早くその計画とやらの説明が聞きたかった。 「君達はな、戦争に行かなければならない」 は…何言ってんの。戦争ってもうアレから起こってないじゃないか… 「まだ世界の戦争は終わってない。君達はそれも知らずに平和すぎる国で暮らしてきた。」 白川は一つ、間を空けて次の言葉を発した。 「少年兵となり、君達には戦争の怖さを体験してもらう。勿論…死ぬ事もある…」 それ以上は何も言わなそうな雰囲気が流れていた。沈黙を破ったのは俺だった。 「…判りました。」 それと、一つだけ俺は白川に要求したいことがあった。 「あの、彼女だけ起こしてもいいですか? この中で女の子彼女だけなんです。人一倍シ ョックが大きいと思うので先に言っておいた方が…」 「…仕方が無い。彼女だけだ。」 了承を貰い、ありがとうございますと会釈してからこの眠っている彩菜を起こす方法を考えた。揺らしただけでは起きそうに無いので、さっきのお返し分と一発で起こせるという理由から引っ叩く事に俺の頭の中で勝手に決定した。 乾いた音が教室に響く。 「痛っいー! 死ねー。乙女に手を上げるなんてなんて奴!」 「シッ…怒りたいのは判るけど、今は大切なときだからいい子に聞いてて。」 | | | | | 「…そんな…」 「ああ、女だからと言ってひいきされる事は決してない。」 「ですよね…」 説明を聞いた彼女は打ちひしがれた。 「もっと青春したかったなー。」 …この期に及んでそんな事を…突っ込もうとした掌拳を握り締め、引いた。 相当ショックは大きかった様だ、彼女は涙を流していた。 *
死にたい…と思うことは一度も無かった。人を殺したい…と思うことも無かった。 そんな俺達が向かっているのは戦地。平和ボケした日本からは到底考えられない戦地。非現実的な空間、世界。 あの場に居た全員はその後、あの軍人白川の2発目の銃声で起きた。放心状態のままの俺達は半ば感覚と気力だけで全員同じ迷彩柄の服に着替え、現地へと… 平和になれてしまった俺達は戦争の怖さを知ってはいるが実際戦争に遭った事は無い。それ故に今、日本では未成年の犯罪と自殺が急激に増え平和なくせに人が人を殺す事が行われている。それは、何不自由なく育ってきた人がする事ではないし折角の命を大切にしないという国側の意見により発案された事をさっき白川に聞いた。 確かに、俺達は戦争なんて他の国がやっているだけで自分達には関係ないと思っているところが多少なりともある。多分皆そういう考えを持っていると思う。無理やり人を殺して、そうしなければ生き残れなかった時代の人々の無念さが今の時代風化しつつある。 …だからといって俺達が、戦争に行かなければならない理由にはならない筈。それが平和国家日本と言っている上の階級がすることなのか!? 一人でキレていてもしょうがない。パニックを起こして折角やっと冷静になれたのを、また混乱させるのも馬鹿のする事だと思った。だから、もうこれは宿命なんだ、使命なんだ、と思い込んで全力で挑んでやろうじゃないかとその場で握りこぶしを更にきつく握った。 きっと90年前の少年兵達も同じ事を考えていたに違いない。 *
「今から、3チームに分かれる。」 そう言って白川の配下の兵士が現地に着くとすぐに荒早にチームを分けていった。彩菜は一人になったら何も出来ないから俺が居てあげないとだめなんだけど…これだけは運に掛けるしかない。 | | | | | | | | 5分経ったか経っていないかのころ、チーム分けが終了した。ついでに僕らの名前はこの時から数字になった。別名が与えられたのだ。そしてチームの人数が合っていないのは、“特攻隊(即死組)”“陸軍隊””“空軍隊”に分けるからだと思う。一番数の少ないチームが…多分特攻隊。そして、チーム分けの結果だけど俺と彩菜は一緒だった。 それと…不運にも“一番人数が少ないチーム”に選ばれてしまった。この事は彩菜には言わないで置こう。もしかしたら俺の思い違いかもしれないし。 けれど、悪い予想ほど的中するもので俺達は本当に特攻隊となってしまったのだ。 「神の子特攻隊、使命ある気高き子」 そう兵士に言われた。 隣に立っている彩菜の瞼に涙の泉が出来ていた。彼女が瞼を閉じるとその涙は川のように緩やかに彼女の頬を濡らした。本当に大人達はばかげた事をするものだ。 6人の特攻隊のうち、サッカー部が2人。天文愛好会が俺達を含め4人。そんなことは今この場となっては関係の無い事なんだけど、予想外にもサッカー部の奴らは涙を流し恐怖心に打ちひしがれていた。しかし天文愛好会のメンバーはもう呆れたようにため息を吐くだけだった。その温度差の高低に思わず笑ってしまい、彩菜に「何で笑っていられるの…」と怒られてしまった。危機感が無い事はいけないことだ。 他のチームはもうとっくに活動を開始し始めている頃、未だ始めようとしない特攻隊チームの主幹に話しかけてみた。 「あの…? 僕達はまだ行かなくて良いんですか?」 「そろそろだ。今に特攻用ミサイル装備の戦闘機が来る。 神の子たるもの待つ事も必要なのだ。」 「はぁ…そうですか。」 盲目過ぎるであろう主幹の発言に心の中で笑いつつも、受け止めなければならない真実に顔が引きつる。どうやら僕達は本当に死ぬらしい。それなのにちっとも死というものに恐怖心も沸かず、現実味も味わえず只泣き続けてる皆の顔を眺めていた。 「彩菜…」 「…何…」 俺は泣き続けている彼女の名を呼んだ。 「泣くなよ。」 「な…泣くなって…人は死ぬって…判ったら泣く…!」 先程よりも更に涙の量が増え、打ちのめされている辛辣な表情を見ているのが正直、俺は辛かった。 「うん、判ってる。でも俺お前の泣き顔見たくない。」 「え…? 何で…」 きょとん、と言う表現が正に合いそうな表情に変わった彼女の顔。ころころと変わる彼女の表情がなんだかとても可愛らしくて。 「何でって、何でだろうね。なんとなく。」 「そっか…なんとなくか…」 少しがっかりしたように俯く。次の瞬間、彼女は笑顔でこういった。 「私は、そうかっていつも慰めてくれる一久が大好きだよ。」 「…?」 彩菜の発言に耳を疑った。 「ずっと、好きだったよ、絶対に言ってやらないって思ったけど…言っちゃった…」 「俺も…別に彩菜の事嫌いじゃないよ。」 「そう? ありがとう。」 もう涙が流れなくなった瞳はにこやかに微笑んでる。死期に近づくと人は言いたい事やしたいことをしたがるっていうのはこういう事なんだな。 バタバタバタバタ…――――――――――――― 轟音とともに現れた上等なミサイル装備の戦闘機が目の前に現れた。16歳前後の少年が乗るのにはとてもじゃないが大きく、スケールが違う。 キラリと光ったボディが随分とまぶしく見えた。 先ほどのチーム分けで付けられた名前という名の番号を兵士が次々に読み上げる。しまいには俺と彩菜しかいなくなり、次は俺の番… 「No.5 搭乗せよ。」 「はい。」 番号を呼ばれた僕は最後にまだ残っている彩菜に向かって言った。 「また、会えたら良いね。」 精一杯、励まそうと思ったつもりだったけど結局それしか言えなかった。 真剣な顔つきになり、戦闘機へ搭乗する。後戻りは出来ない。 さよなら、未来。さよなら、過去。俺は今死にます。狂った戦争ゲームのせいでね。 命を大切にしようと思ったことも、死のうと思ったことも無いけれど…人は死期が近づくと感じるのかもしれない。 どこか心の底で実は…生きて居たいなんて。 兵士の戦闘機の操縦の仕方なんて耳に入らなかった。まだ生きていたいと初めて、今乗って操縦席に座った今思った。 でももう無理なんだ。遅すぎた。 3.....2.......1........0 エンジンが掛かる。思えば人生短かった。17年間しか生きてない。 でも楽しかった…さよなら、未来。さよなら自分。 目標位置まで残り7m 落下時点まで残り3m 「うらぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁあぁあぁぁあっぁあ!!!!!」 俺は渾身の力をこめてミサイルをぶっ放した。 ごめんな、そこに住んでた人たち。俺だって殺したくて殺したわけじゃねえんだ。 パーン! 大きな爆音と共に俺の体は肉片となり片道分しか入っていない戦闘機は破片となった。 まだ見ぬ明日を夢見て少年達は帰らぬ人となった。 この話は実際に受け継がれ、100年に一度このような計画が実行されているのだという。 このお話はフィクションです☆ |